しばしばオフトン

内科医、栄養専門医。ゲーム、旅行記、医学、4コマ漫画。

レジ袋が有料化した

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 6月30日。

 私が行きつけのコンビニに行き、商品を買ってレジに出しますと、店員さんが「あの…」と突然話しかけてきました。

 

 行きつけのコンビニは、まあまあ通っているところなので、そこの店員さんは大体全員見たことがあって把握しているのですが、もちろん居酒屋とかではないので、「おっ大将!どう今日いいの入ってる?」みたいなそういう会話は一切したことがないですし、そんな客はコンビニ側も困ると思うのですが、とにかく店員さんと私はお互い顔は知っているけれど、どんな方かは全然知らないという状況です。

 そんな中、しかし、その店員さんは何となくいつも声も小さくて、大人しそうな方だなという雰囲気は認知していました。その方が、突然「あの…」と、明らかに通常のコンビニレジトークを超えた何らかの話題を私に持ちかけようとしてきている。コーヒーとサンドイッチを握り締め、のほほんとしていた私に突如訪れし事態、急転直下の非日常に私の心は激しく揺れました。何だ何だ…!?一体、何が、起ころうとしているんだ…!?ンドイッチを握り締める私に、店員さんは、小さな声で続けました。

 

「明日から…レジ袋が有料化します」

 

 あっ!

 そういえばそんな話が出ていたなー!エコの一貫みたいな感じで全国レジ袋有料化が始まるとかどうとか!そういえば!あったなー!

 ということは、店員さんはそれを私に伝えて、良かったらエコバックとか持ってきてくださいね、とかそういう業務トークに繋がっていきたいわけでしょう。てっきり、「この後、お茶でもいかがですか」とか「ズボンのチャック開いてますよ」とかそういう何らかのスリリングな状況に繋がるかと思って身構えていたので、私は安堵すると同時に、少し拍子抜けする思いでした。

 しかし。心緩めるにはまだ早かったのです。

 

 「なので…」

 

 店員さんは、そう言いながら、レジの少し奥まったところに歩いていくと、何やらゴソゴソと取り出し始めました。

 なっ!?どういうことだ!?何を探している…!?はっそうか、もしかしてこのレジ袋有料化の事態において、エコバックはいかがですか?みたいな商売戦略に入っているのでは…?

 私に、再び緊張が走りました。このまま、この少しオドオドした店員さんに「このエコバッグをいかがでしょう、三百円になります」みたいな感じで勧められてしまったら、私は「いや、家から持ってきます」と強く言い切れるか自信がありません。なぜなら当初から、この店員さんが勇気を出してこのやりとりを始めている感じが私に伝わってきているからです。気の弱いこの店員さんが、普段の業務を超えて、頑張っている姿を見て、私は果たして泰然としていられるだろうか…いらないエコバッグを買うという、最もエコとはかけ離れた蛮行に手を染めてしまうのではないだろうか…

 そう私の脳裏が高速回転していた中、店員さんはおずおずと一枚の紙袋を持ってこられました。

 あれ、紙袋?エコバックというには弱々しい存在、普通の紙袋です。きょとんとした私に店員さんは続けました。

 

「明日からこれを持ってきてくださったら…こちらに入れますね」

 

 そういって、店員さんは少し恥ずかしそうに、ニコリとしました。

 

 なんてこった…。私は自分の卑しさを恥じました。レジ袋有料化に託けて、エコバックを売ろうとしてるんじゃ、なんて、とんでもない考えでした。この店員さんは、有料化に向けて、私が困らないように、損しないように、普通のビニール袋ではない紙袋を用意してくれたのです。今日はこのサンドイッチとコーヒーをこれに入れてお渡しするので、これなら明日からも使えますからね、とそういうわけです。

 果たして、これをお客さん全員にやっているのかわかりません。でも、店員さんのその勇気を出しているような雰囲気、そして私ははっきりいってそのコンビニの常連中の常連だと思うので、お互い顔見知りだから、良く来られる方だから、という感覚で、気を遣ってくれたのかもしれません。

 人の優しさ…殺伐とした社会情勢で忘れかけていた大切な何かを私は取り戻した気がしました。「ありがとうございます、是非使わせていただきますね」と私は笑顔で受け取りました。店員さんも、にこり、とされて、「はい」と。

 これまで会話らしい会話もしたことがないような私たちも、しかし心の中では何か会話がされていたのかもしれません。それが、今一つの形になった気がしました。お互いがどんな人で、そんな生活をしていて、どんなことを思っているのか、それは相変わらず分からないままだけれど、私とこの店員さんの心は、このとき確かに通ったのです。

 私はコーヒーとサンドイッチが入った紙袋を大事に抱え、仕事に戻っていきました。

 

 ーそして、7月1日。

 私は、いつものようにコンビニに向かいました。しかしその手には、一枚の紙袋があります。一本のコーヒーを手にとり、あの店員さんのレジに並びました。何だか少し恥ずかしいような気持ちになりましたが、コーヒーを出しながら、その紙袋を店員さんに見えるように掲げます。

 ほら、持ってきました、使わせていただきますね、と目で訴えると、店員さんはコーヒーをピッと読み取って、私を見上げ、言いました。

 

 「こちらシール貼っておきますねー

 「えっあっはい」

 

 そのまま渡されたコーヒーを、私は握り締めました。

 そしてコンビニから出ると、一応、そっと紙袋にコーヒーを入れました。

 

 コーヒー一本だったら、そりゃ袋に入れる必要ないか…。しまった、もうちょっと色々買えばよかった…。そしたら袋に入れてくれたのかな…。

 なんとなく気恥ずかしいような感じがしながら。私は仕事に戻ったのでした。

 

 あっ、なんかすみませんそれだけの話です。

 

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